二重協奏曲
ベートーヴェン:トリプル・コンチェルト & ブラームス:ダブル・コンチェルト

『旧ソ連の演奏家が組んだ一期一会のモニュメンタル』
リヒテル、オイストラフ、ロストロポーヴィチはそれぞれ旧ソ連出身で20世紀最高の演奏家と謳われた人々である。その彼らが組んで録音した一期一会の演奏がここに収められたベートーヴェンの三重協奏曲とブラームスの二重協奏曲である。
ベートーヴェンの三重協奏曲は「英雄交響曲」や「熱情ソナタ」と同時期に作曲された近代的協奏曲の可能性を広げようとした野心的な作品であるが、他の傑作に比べると聴き劣りがするのは否めない。第一楽章の楽想も平板で単純であるし、三つの楽器の用い方も十分にそれぞれの魅力が発揮されていない霊感に乏しいものである。第二楽章の叙情的美しさや第三楽章の華やかで火花散る協奏的応対など素晴らしい部分も見られるが、全体としては傑作とは言い難い。そのため、今日では名演奏家の協奏の醍醐味を鑑賞する時ぐらいしか演奏されない。また、つまらない演奏になってしまう事も少なくはない。その点、このディスクの演奏は心配ない。いや、むしろ三人の演奏家の偉大さとこの曲の魅力を最大限引き出した演奏と言えるだろう。ピアノパートはアマチュアピアニスト、ルドルフ大公のために書かれたと言われ、終始他の楽器に比べ地味な存在だが、リヒテルはそれを確実に、かつ繊細に受け持っている。オイストラフ、ロストロポーヴィチも力強く、風格に溢れた素晴らしい演奏をしている。そして、バックのカラヤン、ベルリンフィルも作品を歪曲せず、三人の演奏家に私淑するように謙虚に誠実に努めている事も伺えよう。カラヤンは大変この録音時に気を使ったそうだが、それが良い意味でプラスに働いたのかもしれない。
他方、ブラームスの二重協奏曲は大変な傑作である。クララ・シューマンの手紙にちなんで別名「和解の協奏曲」と呼ばれ、当時不和な仲にあったヨアヒムとブラームスの仲違いが解消された作品である。元々、交響曲第5番になるはずだった曲であるためか、堅固なゴチック的構成、渋みを備えた淡い色彩、古風な響きといったいかにもブラームスらしい質実剛健で威厳に満ちた内容である。このような内容のため、当時は後世には残らないだろうと評価する声が多かったが、その推測に反し、比類のない傑作としてこのように残されたのはこの曲の素晴らしさを証明するのに余りある事である。この曲をオイストラフとロストロポーヴィチは力強く、大変ロマンティックに魅力を余すところなく伝えている。第一楽章、第三楽章のスケールの大きさ、深々とした響き、圧倒的な表現力は言うまでもなく素晴らしいが、第二楽章の優しさと包容力に溢れた対話もまるでブラームスとヨアヒムが文字通り親密に「対話」しているかのようである。とりわけ、中間部のチェロとヴァイオリンがアルペジオで応答する部分で顕著に感じる。ブラームスの芸術はこのように親密に語りかけるような素朴な美しさが底に流れていると私は思うが、それが日本人の気質に合うのではないかと思う。
この録音は演奏家の一期一会のモニュメンタルであると同時に、それぞれの楽器の魅力に触れるのにこれ以上ない録音でないかと思う。今年、ロストロポーヴィチも亡くなり、前世紀の旧ソ連の偉大な演奏家はすべてこの世から去ってしまった。彼らを追悼すると共に、今は無き偉大な芸術としての音楽を偲ぶ意味でぜひじっくり耳を傾けて頂きたい。
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